JR東日本では、非電化区間における環境負荷低減を目的として、試験車両「NEトレイン（New Energy Train）」キヤE991-1を開発して試験を行い、ディーゼルハイブリッド車両の実用化として2007（平成19）年7月に小海線にキハE200形が投入された。続いて、2010（平成22）年10～12月に長野、秋田、青森地区にリゾートハイブリッド車両HB-E300系が投入された。その後、キヤE991-1は2008（平成20）年に燃料電池動車に改造されてクモヤE995-1となったが、愛称は「NEトレイン」のままであった。
　また、自動車業界においてはハイブリッド自動車や電気自動車の開発が進み、蓄電池の出力や容量などの性能が向上、価格も低下してきたことから、鉄道車両に大容量の主回路用蓄電池を搭載し、地上に設けた充電設備て充電して非電化区間を蓄電池の電力のみで走行させるシステムの開発に着手することとなった。そこで、NEトレインは2009（平成21）年にパンタグラフを搭載して「蓄電池駆動電車システム」試験車両に再改造され、「スマート電池くん」の愛称に改められた。
　蓄電池駆動電車システムは、電化区間では電車としてパンタグラフで集電を行って走行し、蓄電池のSOC（充電率：State of Charge）が低い場合は、架線からの電力や回生ブレーキの電力を蓄電池に充電する。非電化区間ではパンタグラフを降下させ、電化区間や駅停車中に充電した電力により蓄電池駆動で走行するもので、電化区間と非電化区間の共通運用による車両運用効率向上、エンジン・変速機などの削減によるメンテナンス性向上、排気ガスおよび二酸化炭素排出や騒音の低減が見込まれる。こうした背景により、実用化に向けて性能試験、試運転等が行われた。
　そして、蓄電池駆動電車システムの実用化の目途が立ち、2014（平成26）年3月にEV-E301系量産先行車が総合車両製作所横浜で製造され、東北本線宇都宮-宝積寺間、烏山線に投入された。
　地上充電設備は折返し駅である烏山駅に設けられ、ここでは電力会社の配電線から受電し、変電装置で降圧・整流を行い、剛体架線を通じてパンタグラフを上昇させた車両に給電する。充電時間短縮化のため大きな集電電流による充電（急速充電）を行う。パンタグラフはすり板を強化したタイプのものが、地上設備は剛体架線が採用されている。
　EVｰE301系は、「人に優しい未来につなぐ、次世代車両」をコンセプトとし、1号車（宇都宮方）からEVｰE300形（M'c）＋EV-E301形（Mc）の全電動車の2両編成で、パンタグラフは2号車に搭載される。EVとは（Energy storage Vehicle）の頭文字である。
　車体は車体長19,570㎜、全長20,000mmの軽量ステンレス構体で、車体幅はストレートの2,800㎜、 車体高さは3,620㎜、パンタグラフ折りたたみ高さは、狭小トンネル対応の3,980㎜となっている。床面高さは1,130㎜である。片側3扉で、カラーリングは、ストライプを用いて先進性を表現するとともに、シルバー／グリーンの配色比率で、沿線風景との調和・環境に対する配慮・さわやかさが表現されている。また、床下の主回路用蓄電池箱とパンタグラフにもグリーンを配色して「蓄電池駆動電車」であることをアピールしている。
　客室内は腰掛が片持ち式構造のオールロングシートで座布団および背ずりはバケット形で有効幅を460㎜としている。後位寄りには機器室が設置されている。室内灯はLED式の間接照明で消費電力の低減が図られ、連続的に配置されている。側出入口は押ボタンによる半自動対応で、バリアフリー化として開閉時にチャイム音と赤色のランプの点滅により知らせ、ドア先端のゴムを黄色として視認性向上が図られている。優先席を含む先頭寄12人掛け部の吊手及び荷物棚は50㎜低くして身長の低い旅客に対応している。後位寄には車椅子スペースを設け、着座したまま乗務員と通話ができる非常通報装置も設置している。先進性や次世代サービスを持つ一方で、烏山線沿線の四季や、伝統工芸の和紙、「山あげ祭」などの伝統行事を腰掛や床材デザインにより表現している。
　乗務員室はワンマン運転に対応した非貫通の全室運転台で、衝突時の乗務員保護のため前頭部の強化が図られている。また、運転室背面上部中央には車内案内表示を兼ねた液晶式運賃表示器が設置されている。急速充電など、蓄電池駆動電車として必要なスイッチ類はすべて乗務員室内に設置され、運転台モニタ装置は運転情報や車両情報の表示などの従来の機能に加え、蓄電池の充電量や各機器間のエネルギーの流れ、車両が認識している架線状態等を表示する機能が追加されている。
　制御方式はPWM制御によるIGBT-VVVFインバータ制御で、架線電圧1500Vを蓄電池電圧630Vに降圧するためのDC/DCコンバータを備えており、インバータとコンバータを一体型の電力変換装置にしたものを2号車に搭載、1号車に補助電源装置、電動空気圧縮機などを搭載している。主回路用蓄電池箱は各車両に1群単位（5台）ずつ装備し、2群構成として冗長性を持たせて編成で10台装備している。編成あたりの容量は190.1kWhで、輸送障害時や経年劣化に備えて余裕を持たせている。
　台車は前位側が従台車、後位側が動力台車で、ブレーキ方式は回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキで、直通予備ブレーキ、耐雪ブレーキ、抑速ブレーキを備え、上述のとおりブレーキで回収したエネルギーを蓄電池に充電、電化区間で満充電に近い場合には架線に電力を戻せるようになっている。最高運転速度は100km/h。
　小山に配置され、蓄電池を意味する「accumulator」から「ACCUM（アキュム）」の愛称となり、2014（平成26）年3月15日から量産先行車1編成が烏山線で営業運転を開始した。
　2017（平成29）年には3編成が総合車両製作所横浜で製造されてV1～4の4編成の陣容となり、3月4日のダイヤ改正で烏山線のキハ40形1000番代を置き換えた。