JR九州において、老朽化した415系近郊形交直流電車の置き換えのため、2018（平成30）年より製造された。
同時期に開発された長崎本線・佐世保線用のYC1系蓄電池搭載型ディーゼルエレクトリック車両（ハイブリッド車）と同様に、「やさしくて力持ちの鉄道車両」をコンセプトに、「JR九州の今後を担う最新技術を駆使した近郊形タイプ車両」として開発された。コンセプトの「やさしい」点は、乗客サービスの充実として、1人あたりの腰掛座面幅拡大、出入口に足元のホームを照らす照明の設置、室内にダウンライトタイプのＬＥＤ照明の採用、スマートドアの採用、４ヶ国語対応の案内表示器マルチサポートビジョン（車内）、行先案内表示器（車外）の設置、車椅子やベビーカーのためのスペースを1編成あたり2ヵ所設置、環境負荷の低減としてフルSic(「Silicon Carbide=シリコンカーバイド」)を採用した主回路システムの搭載による電力消費量の低減（415系に対して約70％低減）が挙げられる。「力持ち」という点では、安全・安定輸送の追及として、主変換装置（CI）や補助電源装置（SIV）の冗長性（信頼性）による安全・安定輸送の確保、台車個別制御ブレーキシステムの採用、車両・地上設備の状態を把握する状態監視システムの搭載のほか、空調装置やブレーキ装置等の機器の共通化によるコストの低減が挙げられる。
車両デザインは引き続き水戸岡鋭治氏のドーンデザイン研究所が担当している。
　小倉方からクモハ821形（Mc）-サハ821形（T）-クハ821形（Tc）の3両編成で、2018（平成30）年2月に量産先行車として、2編成が日立製作所で製造された。

車体および車内設備

　車体は大型アルミ中空トラス形材を利用したたダブルスキン構造のアルミ合金製の無塗装とし、LEDで縁取られたLEDが特徴的な前頭部は鋼製で黒色、片側3ヵ所の側引戸は赤色で、押しボタン式の半自動対応ドア（スマートドア）である。客室内は明るい空間とすべく白を基調としており、座席はオールロングシートで、背もたれを高くしているため、側窓の天地寸法が小さくなっている。
　車体には817系と同様に「CT」のロゴとともに「Commuter Train 821」と記されている。
　側引戸上部に大型液晶ディスプレイ（マルチサポートビジョン）を設置している。室内灯はLEDである。便所はTc車に車椅子対応の大型のものを設置している。運転台は従来車と同様にワンハンドル式の主幹制御器を採用している。また、搭載機器の動作状況などを集中管理する情報制御装置を搭載しており、各種情報は運転台のモニタに表示される。
　冷房装置は各車屋根上に集中式のAU419K（47,300kcal/h）を搭載し、同装置には冷房機能のほかに急速暖房用の6kWのヒーターも内蔵している。

主回路装置および機器

　制御装置はVVVFインバータ制御で、三菱電機製フルSiC-MOSFETのPC409Kを採用している。主回路方式は3レベルPWMコンバーター+2レベルPWMインバーター方式で2個モーター制御の2群構成（1C2M）である。主電動機は全閉自冷式の三相誘導電動機MT406K（150kW）を採用している。最高運転速度は120km/h。補助電源装置（SIV）は空調設備や電動空気圧縮機（CP）への電源供給用としてSC412Kを編成中に3台（Tc車に1台、T車に2台）搭載して並行運転を行い、故障時には2台運転で対応できるほか、低負荷時には2台で運用できるようにしている。これとは別にSC413KをTc車に2台搭載し、システム冗長化として電力変換部および制御部の二重化を図っている。
　ブレーキシステムは台車個別制御ブレーキシステムを採用、電動空気圧縮機（CP）もTc車とT車にそれぞれ1台搭載して通常時は1台使用するものとして冗長性を持たせている。台車は305系と同様に川崎重工業製の軽量ボルスタレス台車で、Mc車がDT410、TcおよびT車がTR410Kである。保安装置はATS-DK形を装備している。また、811系・813系・815系・817系・BEC819系などと併結可能である。

現況

　南福岡車両区に配置され、編成番号はUM001・UM002となった。
　2019（平成31）年3月16日ダイヤ改正から鹿児島本線小倉-荒木（土休日は荒尾）間で運転を開始、811系と併結の7両編成、または単独での3両編成での運転となっている。
　2020（令和2）年3月14日ダイヤ改正からは本系列が追加投入され、運転区間は門司港-荒木間となり、2020年度には3編成9両導入される。