中央本線の特急「しなの」には、1973（昭和48）年の電化開業で投入された381系特急形直流電車が国鉄分割・民営化後も使用されていたが、 経年20年を迎えて特急車として陳腐化が進んでいたこと、また、1999（平成9）年度には長野で冬季オリンピックが開催されることも踏まえ、 JR東海において後継車両として開発されたのが本系列である。1994（平成6）年8月に量産先行車として6両1編成が日本車輌製造・川崎重工業・日立製作所の3社で製造された。
　「より速く」「より快適に」「より使いやすく」を基本コンセプトとして、スピードアップ、快適性の向上、低メンテナンスの3テーマを達成するよう設計が進められた。スピードアップとしては、操舵台車の採用、車両の軽量化と低重心化による曲線通過速度の向上、VVVVFの採用と車両の軽量化による最高速度の向上をテーマとした。また、快適性の向上としては、シートピッチ拡大、側窓大型化、空調設備の機能向上による居住性の向上と、制御付振子の採用による乗り心地の向上、車内案内・自動放送装置、荷物室の設置による車内設備の充実をテーマとした。そして、低メンテナンスとしては、ステンレス車体、ボルスタレス台車、VVVF制御装置の採用による保守の省力化、シングルアームパンタグラフの採用や、機械ブレーキ部品等における摩耗部品の長寿命化、モニタシステムの採用による乗務員検修支援機能の充実をテーマとしている。
　基本編成は381系に合わせて6両編成とし、クロ383形0番代（Tsc）＋モハ383形0番代（M1）＋サハ383形0番代（T1）＋モハ383形100番代（M2）＋サハ383形100番代（T2）＋クモハ383形0番代（Mc）の3M3Tで、電動車は1M方式としてM車とT車でブレーキシステム等を1ユニットとして構成している。また、長野方のTsc車（1号車）は非貫通パノラマタイプ、名古屋方のMc車は増結を考慮した貫通形で、貫通扉は両開きプラグドアとなっている。車販準備室が設置されている2号車と普通車自由席車として運用される5・6号車は乗車時間の短縮を図るため、出入台を前後2ヵ所設置、また、スキー客や登山客が多いため、各車に荷物室が設置されている。
　車体は軽量ステンレス構体であるが、前頭部は普通鋼製である。エクステリアは、先に製造されたキハ85系特急形気動車のイメージを踏襲して、前面および側面窓下部にオレンジ色の帯を配するが、車体側面については黒色の窓周りの周囲をピンストライプ状のブラウン帯としている。側窓については客室からの眺望を考慮して850mmの開口高さとなっている。
　客室内はシートピッチを普通車では381系の910mmから1,000mmに、グリーン車で1,160mmから1,200mmにそれぞれ拡大し、普通車の腰掛はフットレスト付、偏心回転式のフリーストップリクライニングシート、グリーン車は大型背面テーブル、インアームテーブル、両面フットレストを備えている。なお、グリーン車の床はカーペット敷きである。
　また、車両の状態監視および乗務員支援機能を備えたモニタシステムが搭載されている。冷房装置は低重心化のため室外機を屋上、室内機を床下に分散したC-AU35となっている。パンタグラフは車体の低重心化と軽量化のため、シングルアーム式のC-PS27を搭載する。
　主回路システムはJR東海の在来線電車では初のVVVF制御装置が採用され、整流素子にはGTOサイリスタを用いている。主変換装置は東芝製となっている。
　曲線通過速度向上に伴い、車輪の横圧が増すと、締結装置の負担力増大、レールおよび車輪の早期摩耗、きしみ音の発生が懸念されることから、操舵機能を持つ台車（C-DT61・C-TR245）が採用された。これは東京大学生産技術研究所須田義大助助教授（当時）の理論に基づくもので、進行方向前側の軸箱の支持剛性を柔らかくし、曲線区間で車輪がスムーズに曲がることができる仕組みとしたものである。低重心化のため810mmの小径車輪となっている。
　381系の振子装置は自然振子方式で、振子機構は単体を2個のローラーで支えるコロ式が採用されていた。しかし、乗り物酔いや、曲線入口での「振り遅れ」などが課題となり、これに代わり、制御付振子システムとベアリングガイド式振子装置が採用された。制御付振子システムは、JR四国2000系で実用化されていたもので、車上の指令制御装置に事前に曲線情報を記録しておき、ATS地上子を検知すると、地点信号と速度情報による距離演算から個々の曲線出入口を割り出し、指令制御装置から振子制御装置に曲線情報を送り、制御シリンダが振子角を制御するというものである。また、曲線通過速度のさらなる向上のためには、振子中心を下げる必要があり、従来のコロ式よりも転動抵抗が小さく、防塵装置が簡素化されて装置全体が小型軽量化してメンテナンス性も向上したベアリングガイド式振子装置が採用された。
　ブレーキシステムは、回生・発電ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキで、閑散線区においての回生失効対策として発電ブレーキが搭載されている。
　以上により曲線通過速度（R60）は381系の110km/hから125km/hに、最高運転速度も120km/hから130km/hに向上した。
　神領に配置され、量産先行車（A1編成は）1995（平成7）年4月29日から臨時特急「しなの」で営業運転を開始。1996（平成8）年6月からは量産車として、 6両編成8本（A2～A9編成）のほか、8両編成や10両編成での運転に備えた増結編成として4両編成3本（A101～A103編成）、2両編成5本（A201～A205編成）が落成したが、4両編成のグリーン車は貫通形の新区分クロ383形100番代となり、2両編成には新形式のクハ383形が誕生した。量産車における主な設計変更点として、台車は柔剛軸ばね式操舵台車（C-DT61A、C-TR245A）に、冷房装置はCｰAU35Sとなった。台車については量産変更車においても量産車と同様に改造された。
　量産車の登場により、1996（平成8）年12月1日から特急「しなの」の定期列車は本系列に置換えられ、「ワイドビュー）しなの」として381系使用の臨時列車とは区別されるようになった。その後、2007（平成19）年に波動用として残っていた381系もすべて廃車されたため、大糸線へ乗り入れる臨時列車も含め、「しなの」系統はすべて本系列で運転されることになった。なお、JR西日本の大阪駅まで乗り入れていた1往復については、2016（平成28）年3月26日ダイヤ改正で乗入れが廃止された。
　2017（平成29）年3月現在も神領に76両が配置され、特急「しなの」のほか、中央本線のホームライナー系統に使用されている。