JR西日本の特急「やくも」で使用されている381系特急形直流電車の置換えのため、2023・24（令和5・6）年に近畿車輛で4両編成11本が製造された。

開発にあたっては、「安全性・安定性」として、防犯カメラの設置による車内セキュリティ向上、車体の衝突安全対策、機器の二重系化等、「快適性」として、国内初となる「車上型制御付自然振り子方式」による乗り心地の向上が図られている。これは、車上の曲線データと走行地点のデータを連続して照合し、適切なタイミングで車体を傾斜させるもので、JR西日本、鉄道総合技術研究所、川崎車両の共同開発によるものである。また、座席間隔の拡大、座り心地を改善した座席の採用、空気清浄機の搭載、抗菌・抗ウイルス加工による安心した車内環境づくり、「バリアフリー・利便性」としては車椅子スペースの拡大、多目的室の設置などの設備の充実、車内 Wi-Fi、全席コンセント、大型荷物スペース設置などが行われ、「環境負荷の軽減」としては、よりエネルギー変換効率に優れた VVVF 制御装置、LED 照明等による省エネ化が図られている。

デザインはイチバンセン代表のデザイナー川西康之氏と近畿車輛デザイン室によるもので、エクステリアコンセプトは「沿線の風景に響き自然に映える車体」、インテリアコンセプトを「山陰の我が家のようにくつろげる温もりのある車内」とし、車体色は、沿線の自然・景観・文化・歴史を尊び、乗客と交感する色として「やくもブロンズ」色が採用された。これは大山の朝日や宍道湖の夕日などをイメージした鬱金（うこん）色、たたら製鉄の「黄金（こがね）色」、大山夏山開きのたいまつ行列をイメージした「銅（あかがね）色」、沿線の街並みの赤瓦をイメージした「赤銅（しゃくどう）色」をベースとしている。

ロゴ・シンボルマークは「モダンに八雲立つ、伝統を継承」をコンセプトにデザインされている。

編成は出雲市方1号車からクモロハ272形（M'sc）＋モハ273形100番代（M1）＋モハ272形100番代（M'1）＋クモハ273形（Mc）の4両編成で、全電動車編成であるが、各車0.5M方式のため、実質的には2M2Tに相当する。多客時には4両編成を2本繋げた8両編成で運転される。

車体はアルミ製ダブルスキン構造を採用し、287系や271系に準じた前面衝撃吸収構造による貫通形高運転台であるが、一部車両の前面貫通扉は準備工事となっている。振子車両として低重心化を図るため、屋根高さは3,430㎜、車体幅は2,850㎜としている。

主回路制御方式は2レベル電圧形 PWMインバータ（1C2M）で、エネルギー損失の少ない次世代半導体「SiC素子」の駆動システムを採用、制御装置は日立製WPC19-(H)である。補助電源装置は75kVAで編成中で2両が搭載する。

主電動機は全閉式かご形三相誘導電動機WMT110（220kW）で、最高運転速度は120 km/h。

ブレーキ装置は回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキを採用、台車はキハ187系などで実績があるベアリングガイド式制御付き自然振子方式のWDT72（電動台車）、WTR241A（付随台車）である。パンタグラフはWPS28Fで、Mc車とM1車に各2基（1基は霜取り用）搭載、冷房装置はWAU708Bとなっている。

客室内については床面を木目調の落ち着いた雰囲気とし、グリーン車は1＋2列の座席配置でシートピッチ1,160㎜、座面を「やくもブロンズ」色、背もたれを黄色として、富と長寿の象徴とされる亀の甲羅をイメージした「積石亀甲」模様をあしらって山陰の文化・風土を演出している。普通車は2＋2列の座席配置でシートピッチ1,040㎜、背もたれを沿線の自然と風土をイメージした緑色と青色とし、古来から神事に用いられて人を守る魔除けの意味もある「麻の葉」模様をあしらって沿線の自然・風土を演出している。3号車には車椅子スペースと車椅子対応座席を設けている。また、1号車（M'sc）にグループ向け座席として「セミコンパートメント」を設け、1＋2列のボックス席を各2組配置、車窓が楽しめるよう座席に合わせた窓配置とし、座席は双方の座面を引き出すことによりフラットにできる構造とし、大型テーブルと緩やかな仕切りで適度なプライベート空間としており、「わくわく団らんの様子」を図案化した専用のロゴもデザインされている。

後藤総合車両所出雲支所に配置され、2024（令和6）年4月6日に運用を開始、Y1〜Y11編成として6月までに全44両が投入される。